06 早春の山
写真家・野川かさねが山の世界のひとかけらを皆様にお届けする連載フォトエッセイ「山と写真」。第六回は「早春の山」 真っ青に澄んだ空の下、 肩をちぢこませて歩く。 この寒さがずっと続くのかと 少しうんざりしはじめた頃。 朝、カーテンを開けると ぼんやりと煙ったような 春の陽が差し込んできた。 いてもたってもいられずに 家から一番近い山へと出かける。 最寄り駅から頂上までは １時間半ほどの小さな山。 登山口から見上げた山は まだ全体に茶色っぽく、 暖かい陽気のせいなのか その輪郭も滲んでいる。 毎春、私はこの山で見る スミレの花を楽しみにしている。 時期はまだ早いというのは分かっていたが、 紫色の小さな花との出会いを 期待をしている自分がいる。 登山道をゆっくりと進む。 林の中を歩き、吊り橋を越える。 ある分岐についた時に ふと顔を上げると、 いつしか視線はスミレを求め、 地面ばかりを追...
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