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小泉桃太郎さんの投稿

 静岡県の伊豆半島中央部の東西に広がる天城山は連山の総称で日本百名山の一つ。 伊豆半島最高峰である万三郎岳(1,406m)をはじめ、万二郎岳(1,299m)、遠笠山などからなる。天城山は登山を始めた2年目にチャレンジ。日本百名山なので、わくわくしながら登ったのを覚えてる。登山口の駐車場までのドライブも気持ちよく楽しめた。登山コースは天城山のシャクナゲ周回コースをチョイス。標高差360m以上、総距離約9km以上と高尾山と那須岳の登頂経験があれば問題ないレベルなはずだ。下山の距離4kmは気になったが、初心者向け(シャクナゲコースのレベルは中級者)とあったので下山も楽勝であろうと深く考えずに登り始めた。

 天城山の登りはじめの登山道は登りやすくこれなら山頂まで行けそうだと感じた。登山口から距離1km、最初の分岐の四辻まではハイキング気分だ。四辻から万二郎岳の山頂までは1.4km、標高差240mと難易度は低い。最初のピークである万二郎岳に登っている最中に天候が悪化。雨さえ降らないが霧で視界が悪くなる。薄暗い山中でたった一人で登っているのが不安でたまらなくなった。こんな経験は初めてだ。天候ってこんなに気持ちに影響を与えるんだ。楽しいハイキングが苦行に感じられた。それでも登山を始めたらからには登頂したいという気持ちが勝り、もう少しがんばることにした。撤退しようか迷いはじめた頃、頭上付近で複数の登山者の話す声が聞こえた。あ、もしかして山頂?登り切ると山頂だ。うれしい。これなら、まだ行けると思いピストンで引き返すことなく2km先にある次のピークの万三郎岳を目指す。

 2座縦走は初めてであったが、下山後の帰りの山道は歩きやすい林道?を勝手にイメージしそれまで頑張れば何とかなると思った。今までの初心者用の低山登山は山頂まで登り一辺倒、下山は下り一辺倒だったのに、二座縦走は登ったり下ったりするので、それが思っていたよりきつかった。万三郎岳までの2km区間には小さなピークがひとつあり上り下りを2回繰り返す。想定外の体力消耗だ。なんとか次の万三郎岳の山頂に到着。達成感でいっぱいだ。やればできると。そこで昼食する予定だったが食欲がない。食事も満足に取らずにカロリーメイト一切れと水分だけ補給しそのまま予定通りに周回コースで下山する。休憩も満足に取らずに朝食、昼食抜きで登山する無謀ぶりだが、早く帰りたいという不安が勝り道中を急いだ。

 下山は登山口まで残り距離4km、標高差360mと疲れ切った初心者にはきつい。そこに追い討ちをかけたのが、万三郎岳の山頂からの下山2kmの区間だ。最初の下山1kmは初心者コースとは思えない急斜面の連続。目の前で登山者が転んでいる。危ない…。気をつけなければ。折り返しからトラバースを展開する次の1kmがこの登山コース最大の魔のコースと呼びたい。ガレ場が多く、足の踏み場もなく、道もわかりにくい。足場が悪く慎重に歩くので、想定以上に時間がかかりなかなか前に進まない。通りすがる登山者も「ここさっきから全然進まないじゃん」と叫んでいた。そして折り返しからの道がわからない箇所があり道に迷いそうにもなる。特に石だらけの道は歩きづらくどこが道なのかわからないのだ。踏み跡を探した。登山者が通った道であれば踏み固まっているはずだ。それを頼りに進んだら道標のテープや標識を発見しほっとした。しかしながら登山口まで残り2.4kmというところで身体が悲鳴を上げた。天城山の下山がこんなにきついとは。もう歩けない。いや歩かないと遭難?頭の中でぐるぐると考えるが身体が言う事をきかない。もう限界だ…心が折れた…。…。

 私が最終者らしく他の登山者はいない。こんな状況で救助依頼したら遭難が確定される。恥ずかしくてそんな世間を騒がせる事はできない。救助要請など選択肢に無い。死ぬか生きるかだけだ。たった一人ぼっちで山中に取り残されてしまった。遠くに響く鹿の声が不気味に感じた。そして言う事を聞かない自分の身体にお願いした。「今回だけは助けてください。もしかしたら、途中で倒れるかもしれないけど最後の力をください」と懇願した。しばらくするとやる気が出てきて身体も動けそうに。しかし、残りたったの2kmが遠い。歩いても歩いても進まない。辛い。不安。ただただ水を飲みやり過ごす。水筒はザックにしまわず首にぶら下げすぐに飲めるようにした。もう登山を楽しんでいる姿はどこにもなく無様だ。身体が限界を叫び続けるなか、もうなりふりかまってはいられない。

 気を紛らわす為にスマホで音楽をランダムにして大きな音で聴く。音楽にあわせてリズムに合わせ鳥が鳴く。こんな時に笑える。天城山の山中に西城秀樹の曲ローラ♪が鳴り響いたのも笑えた。後で知ったのだが、 NHKチコちゃんによると「音楽は脳からのSOSをかき消してくれる」そうだ。音楽を聴いていると脳内でドーパミンをはじめとした快楽物質が分泌され、楽しさや喜びの感情が発現。音楽には疲労感やツライと感じる気持ちをかき消してくれる作用があり、脳が出したSOSのサインを感じづらくさせてしまうため、疲労感などを軽減する効果がある(NHK)。音楽は疲労困ぱいした登山時のセルフレスキューには理にかなっているですね。

 この絶望的な状況で助かったのがヤマレコとYAMAPの地図アプリ。当時はまだ使い方がわからず登山開始ボタンを押し単に登山記録として使用。登山計画や登山中の状況確認には使用していなかった。必要に迫られ、自分が今どこにいて後どれくらい頑張ればゴールするのかがわかり、励まされた。精神的にも葛藤の繰り返しが長く続いたが止まない雨はない。やっと平坦な山道が現れゴールに近づいてることを実感する。残り1kmの分岐の四辻まで来たときには平常心を取り戻すことができた。がんばれそうだ。苦しかったが16時頃に何とか登山口に到着。駐車場には私の車1台以外はいない。あー、助かった。頑張った自分にほんとうに感謝した。次からは絶対に無理をしないことを自分に誓った。

 その夜、ホテルで温泉に入り何事もなかったかのようにディナーを食す。まだ頭の整理ができていない。そんな中、ホテルの庭にたくさんの鹿が集まってきた。「天城の山で遭難しかかった人がいるみたいだよ。どの人かな。」そう言ってるかはわからないが近くに寄ってきてかわいい顔を見せる。なんか癒やされた。翌朝、ホテルから一望できる、美しい朝日に照らされた天城山の容姿に感動した。「こわがらなくていいよ。よく頑張ったね。また、おいでよ」天城山がやさしく語ってるようであった。登山初心者のわたしには多くの体験をもたらした山旅であった。

 登山をなめていた。気合いでなんとかなるものでないし、自分の力を過信してはだめなことを思い知らされた。今ではどんな低山でも数回かけて訪れるようにしている。今日はここまで、今日はここまでと脳と身体に登山コースに慣れさせている。NHKのチコちゃんが「最初から運動神経がある人はいない。運動神経は訓練やトレーニングでできる」と言っていたので数回訪れ山頂を目指すのは理にかなった方法だと思う。そうは言ってもアスリートではないので、山頂目的よりはトレッキングをメインにする。無理せず、すぐに撤退するなど、登山に臆病になったものの、天城山でのセルフレスキュー体験はお山を長く楽しむための貴重な体験となっている。山の神様に感謝。(写真2018年6月2日、文2021年7月29日)

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